僕等はここにいる

□浮遊閑話
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5 イタズラ同盟






出会いはいつだったか?









「“ルーク”になんか用か?」




出会ったのはそれこそ偶然だった。


たまたま奴らが近くにいるのを知って、少しだけ気になって見に行った。
別にちょっかいだそうとか思ってたわけじゃない。



でも真夜中という時間帯に、宿の外で見つけた朱色はこっちも見ずにそう言った。


「そこ、いるんだろ?」


顔を少しだけこちらに向けてクスリと笑うそいつに僕は違和感を持った。


こいつはこんな風に笑っただろうか。
少なくとも僕の記憶の中でこいつはそんな表情を見せたことはない。
笑う姿自体見たのは偵察の時に見た他人へのモノだったけれど。



更にこいつの第一声はなんだった?


例えレプリカといえどもこいつに他の名前なんてないはずだ。
被験者から奪った、奪わされた名前。


だけどこいつの言い方だとまるで別人を表しているようで。



なんだか興味が湧いた。


「・・・・あんた何者?」


薄く笑ってそいつの前に姿を現す。



そいつは自嘲的な笑みを浮かべて口を開いた。


「烈風のシンクか、死んだと思ってた。俺の名前は“アーク”」
「アーク?」
「そ。まぁ初代ルークレプリカってとこか?因みに二代目の人格はオヤスミ中」
「・・・どういう意味?」
「そのまんまだって。ここまでヒント出せばお前ならわかるだろ」


聡そうだもんな、と言ってアークと名乗ったそいつは笑った。



普通なら、自分と同じような境遇の者と考える。

だがルークレプリカは一体しか作られなかったとヴァン自身が言っていた。
信憑性に関しては置いておくとして。


今こいつは『人格』という言葉を使った。
ならば妥当な線は一つ。


「二重人格?」
「正解」


さすが参謀、なんておどける彼。

ああ、本っ当に別人だと思った。


「ふ〜ん。じゃあお仲間さん大変なんじゃない?そこまでギャップが酷いとさ」
「ん?なんであいつらが大変なんだ?」
「扱いづらいだろうな〜ってこと」


被験者とレプリカではないが、同じ顔でいきなり性格がひっくり返ったら誰だって混乱するだろう。
身体すら共有してるんだからなおさらだ。



でも彼はそれに苦笑した。


「なんか勘違いしてないか?あいつらは俺のこと全っ然知らないぜ?ミュウは知ってるけどな」
「は?嘘でしょ?」
「ホントだって。俺の代わりにルークが表に出るようになってしばらく経つけど、たぶん入れ替わりにすら気づいてない」
「・・・・ありえない;」
「だよなぁ。いくら俺が夜行性でも気づくよな。性格も本当に違うのに」


深い深いため息を彼が吐く。
顔のしかめ具合から察するに、よっぽどお仲間(かどうかも怪しい連中)が嫌いなようだった。


のちのちそれがどれほどのものか知ることになるんだけれど。



この頃はまぁ初対面だったわけだしそんなの知ったことじゃなかった。


「で、何か用か?」
「別に。近くを通ったから見に来ただけさ。ていうかもっと警戒したらどう?」
「微塵も殺気を出してない奴警戒してもなぁ」


彼は思ったより頭がよかったらしい。
内心結構驚いてた、だってあのお坊ちゃんだよ?

あのぽやぽやした二代目が彼の一部っていうのが未だ信じがたい事実だったりする。


「・・・・そういえば、そんなペラペラ喋っていいわけ?あんたのこと」
「別に隠しちゃいねぇもん。滅多に表に出ないのはあいつらに会いたくないからだし。つうか知ったところでどうってわけでもないだろ?」
「そりゃそうだけどね」


やっぱり自嘲気味にケラケラ笑う彼。




その時、なんとなく思った。


「なぁなぁ、俺ら気ぃ合いそうじゃねぇ?」
「奇遇だね。僕もそう思ってたとこだよ」


2人してニヤリと笑う。


これが彼との始めての会話。







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